「チョウ類と花」特別研修会で池の平と棧敷山をご案内



群馬ナチュラリスト自然保護協議会様とNPO法人尾瀬自然保護ネットワーク様が主催する「チョウ類と花」特別研修会の講師を、環境省鹿沢IFC職員の古川さんと二人でお受けし、ご案内させていただきました。



  


人生の上でも、自然観察のキャリア上でも大先輩方の前で講師として立つのはいささかやりにくいものもありましたが、現地の自然を見つめてきた者として、当地で具現化している自然現象の私なりの解釈や、当地に流れている意識などをお話しさせていただきました。

参加者の皆様は私のようなガイド活動も含んだ自然保護啓蒙活動を行っています。うーん、同じ匂いを感じます。



  


クロヒカゲが獣糞に集まっています。大きさから見て、これはペットのウンチです。ペットは食べ物がいいからミネラルも豊富なのでしょうね。でもギンバエと一緒に獣糞を舐めている姿をみるとちょっと…ぐわっ、その後で私の汗を舐めには来ないでおくれ!!


トラマルハナバチノアザミの吸蜜していました。



    


カワラナデシコマツムシソウなどの花々を鑑賞しています。





ワレモコウの花にとまったトンボは、着地するなり尾っぽを上に高く上げて逆立ちのような形になりました。体温調節のために、直射日光をなるべく避けてこうしているのだそうです。そういえば、涼しい秋にはこのような止まり方を見ませんね。



  


シロバナノヘビイチゴは、尾瀬では違う名前で呼ばれているそうです。こちらは店頭に並んでいるイチゴの原種で、里にあるヘビイチゴとは実の様子がかなり違います。

おお、遠くに見たことがない花が見えますが、ランの花の終わりの様子でした。



  


ヤナギランは尾瀬には少ないとのことです。あんなに広大なところなのに、不思議ですね。「ピグミーの森」を通って移動します。亜高山帯のガレ地特有の針葉樹林でピグミー族のような小人がいかにも出てきそうな雰囲気だから、「ピグミーの森」と名がつきました。



  


見晴岳から佐久平の眺望を鑑賞した後、コマクサ園へ。ここのフェンスを撤去する案が出ていると聞いたことがありますが、それをどう思うか聞いてみたところ、全員「NO」と答えられました。ところが子供たちに問うてみると、半数くらいが「YES」と答えます。人々のモラルは年々上がってきているように感じていますし、私は監視員をしっかり配置している池の平なら、撤去できる可能性があると考えています。



  


随分と色が淡く見えるツリガネニンジン、そしてシモツケソウの群落は綺麗でしたね。



  


雲行きが怪しくなってきました。一雨きそうです。足早に兎平に向かいます。



 


湿原では、スズメガが盛んに活動をしていました。移動が早くて、上手に吸蜜できているのか不思議です。



  


蕾を入れると、花が6つもあるクルマユリ、見事です。マルバタケブキの黄色い花は太陽のようです。夏らしい花ですね。


夏、お花の時期に湿原を歩くと、毎週、咲き乱れている花の種類が違っています。それは、科学的には、厳しい試練が連続する自然環境下で、各植物が種間競争しながら進化し続けた結果、他種と時期を少しずらして一斉に開花することで、決まって花粉を運んでくれる顧客となる昆虫を獲得することができた、そしてその昆虫もその花の蜜や花粉を頼りにした繁殖形態を持つように進化して、その関係はさらに深くなり、多くの植物は同じ地域では一斉に花を咲かせるようになった…というのが、科学的な見解です。


ところが、実は森の花々や昆虫たちはそれぞれ意思を持ち心が通じ合っていて、お互いを思いやりながら自分たちの生活する湿原を美しく住みやすい、いい地域にしようと協力し合っている。それで、それぞれが譲り合いながら交代で一斉に咲くようにした、それで夏のあいだ中、色や模様の違う花々が代わる代わるに咲いて美しくなり、いろんな昆虫たちが長い期間、繁殖できる湿原になった…というのは、非科学的ですが、「お互いを思いやる」ことで美しく命あふれる地球があるんだ、と温かい気持ちになることができます。しかし、前者の方は、「策略を持たなくては世の中を生き延びられない…」と、弱肉強食の掟に生唾を飲み込む…と思うことにもなりかねません。


昔は、「無数のたんぽぽの種が飛んでいって、地面に落ちても、ほとんど皆、枯れ朽ちてしまうが、霊魂が宿った種子だけは芽生えて成長してくる。私たちも、死んだら集落を護っている大きな霊魂の塊に帰って吸収された後、またいつかは地上の生き物の殻の中に入って、この世を生きる魂となり、ひとときの人生を送るんだよ。」なんて教えていたらしいですが、祖先を大切にしたい気持ちにも、世界中の生き物たちが繋がっている、とても優しい気持ちにもなれます。こういう、科学的根拠はさっぱりでも、幸福や感謝の心で満たされて癒されることの方が、はるかに大切だと思うわけです。


私たち自然案内人は、科学的な自然案内に傾倒することはありません。科学の分野は、理科の先生や科学者に任せておいて、もっと自然を全人的に、そして全生命的に感じて、自然に心身を委ね、その意識を受容することを伝えていきたいものです。



  


昼食は「ロッジ花紋」のお弁当。外来でも予約すれば受けてくれるんですね。この後、雨がかなり強くなりましたが、一時的に雨が上がった時を見計らって、桟敷山に登りました。





棧敷山で渡り蝶・アサギマダラのマーキング体験をするのです。アサギマダラは気温22℃〜26℃で活発に飛ぶそうで、この時は26℃。雨も上がったし、出てきてくれるかな?



  


いた、いました!4日前まで一匹もまだ飛来していなかった棧敷山でしたが、この観察会に合わせて飛翔してくるとは、神様も粋なはからいをなさいます。


アサギマダラは西南日本に分布するキジョラン(ガガイモ科)の葉を幼虫は食べ、蛹→羽化して北上してきます。5-6月に当地で見られる個体は間違いなく渡ってきたもの。その後、当地のイケマ(ガガイモ科)に散乱し、羽化した二世はさらに北上して高地のヨツバヒヨドリを目指すのです。だから夏のアサギマダラはほとんど翅が綺麗。羽化したての蝶ですからね。

この時期は、白いタオルを振り回しても集まっては来てくれません。南へ渡る間近になると反応するのだそうです。



  


昆虫網で捕まえたアサギマダラを、優しく取り出して、上翅の丈夫なところを押さえて油性マジックでマーキングします。



  


書いた個体判別、捕獲地情報は、インターネットに登録し、どこかの誰かが捕獲してくれることを待ちます。マジックなので裏側にも良く写っています。こうなると、3回も4回も再捕獲されてしまうと、書くところがなくなっちゃいますね。



  


マーキング後、逃がしたアサギマダラは仮死状態から目覚め、大抵すぐに飛び立っていきますが、こちらのアサギマダラはしばらくじっとしていました。近寄っても逃げません。もしかしたら、疲労させてしまったのでしょうか。2,000kmも渡りをする丈夫な蝶だとはいえ、繊細丁寧に扱うことを心がけしたいですね。



  


23名で頑張って粘り、なんとか32頭をマーキングすることに成功しました。あーやれやれ。鹿沢IFCに戻って閉会式です。このような素敵な空間を惜しげもなく利用させていただける鹿沢IFC様は本当にありがたく、助かっています。


私たち山ガイドは、参加者がいつもは見られない亜高山帯の自然をガイドしお見せしています。しかし、花や鳥の名前や見た目だけの説明だけだと、帰ってからの実生活に何も結びつかなく、役に立ちません。それはまるで東京ディズニーランドに行ってミッキーに会い、ジェットコースターに乗り、一時の夢を見るのと同じと言えます。転地効果とバーチャル体験です。ところが、アサギマダラのマーキング体験はもう一歩踏み込んだ、生き物を直接触ったり、その神秘的な生態を考えてみたり、学術研究・解明に携わった感も得られます。とても良い環境学習プログラムだと思います。


私は昔、アサギマダラがかわいそうでマーキングできませんでしたが、そのような教育的効果があることや、マーキングが飛翔や繁殖にほとんど支障がない、ということを専門家が言ってくれるようになったので、今では安心してマーキングしています。


世話人の宮前様、本当にお疲れ様でした。そしてご案内させていただいて誠にありがとうございました。



      


鹿沢IFC2階サロンでは、企画展「あかりに利用された植物in鹿沢」が行われていました。大笹街道は昔、菜種油を輸送する大切な街道であった、オヤマボクチ等は火口と書き、火を移す火種として利用された、…などなどを展示。


なるほど、灯心(ランプ・行灯(あんどん)などの芯)は、古くはイグサの芯を使っていたのですか…って、え!ノリウツギの芯も使っていたの?いや〜知りませんでした。ノリウツギは糊の材料でこれから多用していこうと思っていますが、芯も今度取り出してみようと思います。






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