「森林浴セラピーと渡り蝶・アサギマダラマーキング体験」を実施しました。



群馬県環境森林部環境政策課の「地域環境学習推進委託事業」で、「森林浴セラピーと渡り蝶・アサギマダラマーキング体験」を実施させていただきました。



森林浴セラピーと渡り蝶・アサギマダラマーキング体験in鹿沢園地2014
http://ecotourism.or.jp/aes_action/f-therapy-asagi20140803.html


以前から鹿沢園地自然学習歩道を活用した森林浴セラピープログラムを一般募集で実施したいと思っていましたが、今回、環境省鹿沢IFC職員の古川さんとの出会いにより、ついに実現することができました。


鹿沢園地自然学習歩道は、源流付近の小川を縫うように自然歩道と木道が交互に通っていて、渓流の自然と木造建築物=人の文明が見事にマッチングしており、大変に美しい、ユニバーサルデザインの自然歩道です。


つまり、私たちからしたらどう見ても「森林浴セラピーをするために設計された自然歩道」にしか見えないのです。実際、設計者・平倉直子さんの説明を少しだけ聞いたことがありますが、そこには現在の森林セラピーと同じ構想・エッセンスが盛り込まれていました。当時の環境省自然保護官をはじめ現地の関係者にあまり理解されていなく、可哀想でした。当時(11〜12年前)としては早すぎる天才だったのでしょう。


それはさて置き、今回の森林浴セラピーツアーの内容を(惜しげもなく)公開いたします。



  


当日の参加者は7組で15名様。参加者様に恵まれて「森林浴セラピーツアー」としては大人数のツアーとなりました。鹿沢インフォメーションセンターの通路は小さなお子様でも景色が見られるような気遣いがなされています。



    


園内を歩きながら、何気なく散策。トリカブトと渓流のコントラストはいつ見てもいいですね〜。見たり、触ったりしながら古い木造建築物を移築したような、あずまやに入ります。



  


ここでは、椅子に座ったまま、楽々スタイルでのストレッチ体操。まだ導入段階なのでBGMを流し、森林の中というよりは公園でのイメージで実施しました。



    


徐々に森の深部に入ってゆきます。途中、自然解説は聞かれた時にだけするようにします…が、午後のプログラムのためにアサギマダラの食草・イケマはお教えしました。



  


そして水辺のテラスへ。湯尻川には源流付近、清流でしか生きられないハコネサンショウウオも生息しています。子ども達は水辺の自然に心を弾ませています。



  


ワイワイガヤガヤムードが高まってしまったものの、とりあえずはここでヨーガの完全呼吸をヒントにした呼吸法(調気法)を行いました。腹式呼吸、長く深い呼吸を習慣づけるのです。ストレスが自律神経のバランスを狂わせ病気を誘発します。そのために現代人は意図的に副交感神経を高められる時と場所を持つことと、訓練することが必要なのです。


ここではまだ、森林浴セラピー導入段階なので、呼吸法/瞑想に適したBGMを使用しました。現実的に、初見のセラピストと対面してまだあまり時間が経っていないのに、いくら森林の中だからといって心を開いて森に身をゆだね、森とシンクロしているところをセラピストに見せる…というのは、ありえないことでしょう。だから、音楽が流れている位の方がちょうど良いのです。



  


湯尻川沿いの自然歩道を上って行きます。トクサの密生はジャングルのように危険な森のイメージがありますが、木道が割と新しく、深い森ではないので不快感はありません。



  


次に、もう少し渓流から離れての森林安息です。ここでは「マットを広げて、そこに寝転がって何もしないでみる」ということをやってみます。寝転ぶことはそれだけでリラックス効果があり、体に良いと言われるフィトンチッド(森の芳香成分)は林床の方が濃厚に漂っています。また、横たわると(偉大な自然に対して)自分の無力さを感じるため、「森林のあるがままを受け入れる」しか無くなってきます。そうすると、森林、或いは自然界のゆらぎと必然的にシンクロすることになり、私たちが本来持っている身体・生理機能、自然治癒力は高まってくるのです。


この辺まで来ると、参加者はかなり森林とシンクロしてきているので、このプログラム以降は、BGMは使いません。自然界にある小川のせせらぎ、野鳥のさえずり、葉の擦り音…などがBGMとなります。


約10〜15分間、ゆっくりしていただきました。





「一人になって心を静かにし、自分を客観的に見つめると、自分自身の本当の気持ちに気づく…」


という話がありますが、果たして森林浴セラピーにそういうことが必要なのでしょうか。


答えはノーです。


特に「気づかせる」「気づいてもらう」なんて、もってのほかです。

「迷える子羊を導こう」と思っている人は、牧師にでもなってください。
精神疾患を改善してあげたい」と思う人は、精神科医を紹介してあげてください。


サービス業としての「森林浴セラピー」には、そういうことは必要ありません。

ただ、お客様に最適なリラックス場所と用具を整えること、ストレスにならない程度の説明と、親しみ易く好感度が高い自分、が必要なだけです。そうすると、お客様は深くリラックスすることができ、サービスを提供していく課程で、自由に発想してみたり、感性を深く動かしてみたりすることができて、新たな発見や、新たな感覚が生まれることがあります。


…が、たまたまその時にセラピストは居合わせただけ、です。策略や狙い、落としどころを持ってお客様に接すると、意識が自然とお客様よりも自分の方が立場が優位なように働いてしまいます。そういうセラピストの気持ちは、見透かされてしまうもの。お客様がかえって心を開かなくなってしまいます。よっぽど慣れた人や、詐欺師さんは別ですが…




さて、ところで普通、活動的な子ども達が、こんなに天気の良い日に、おとなしく「何もしないで寝る」なんてことが出来ると思いますか?


できるわけがないでしょう。




それで、大人たちが寝ている間、別のところに連れて行って、こんなことしていました。






森のジャングルジムで大はしゃぎ!



予め見つけておいた、10本以上の幹に株立ちした大きなミズナラの木に、ロープをぐるぐる巻いてジャングルジムにして、さらに別の木にもロープを張って綱渡りを作りました。「何もしない」とは真逆の、アドベンチャーに遊んでもらったわけです。


子どもたちは大喜びで大はしゃぎです。表情も、呼吸法の時とはまるで違っています。そしてこの後は意思の疎通がさらにすみやかになり(仲間と認めてくれた?)、案内人として進行が楽になりました(笑)。


子供達にとっては森の中で静かにじっとしている方が『ストレス』になり、元気に遊んだほうが、『癒し=セラピー』になったのですね。大人とはまるで違う生き物のようです。森林浴セラピー親子体験会はかなり難しいプログラム、と言えると思います。



  


いったん、水辺から離れた大人たちでしたが、その後もう一つの川辺、湧水川の階段テラスに到着。ここでは渓流と木造建築物のマッチング景観を楽しみます。時間があったら、ここで再度、各自の呼吸法をしても良いでしょう。



  


合体木を通過し、シナノキの前へ。ここでは、シナノキにまつわるありがたいお話を、古川さんがしてくださいました。


シナノキ菩提樹の話、菩提樹とお釈迦様と悟り、セイヨウシナノキはみんなが集まってくる憩いの木…など。古川さんの語りっぷりはNHKアナウンサーにも引けをとりません。あーありがたい。



  


では、シナノキをさらにた〜っぷりと感じてもらうプログラム、開始します。


先日のシナ縄をつくる学習会でゲットしたシナノキ内樹皮を川水に浸けてもらい、一人ずつ適当な量に分けます。



  


このシナノキを縄ないして、さらに縄クラフト「縄より馬」を作るのですが…



  


できた「縄より馬」はこんなでしたー。左はキリン、…右は?☆!



  


そして、昼食時にはシナノキティー(リンデン)とハーブティーを飲み比べてもらい、よりシナノキを味わってもらいました。これで、午前中の森林浴セラピープログラムは終了しました。


後で聞いたところ、大人達にとっては「シナノキの縄ないプログラム」が、最も人気でした。子供達にとっては「森のジャングルジム」だったようですが…


シナノキは後出しティーもあり、用意周到なプログラムではあったのですが、素手で、木の皮の内側に触れるという触感の心地よさ、そしてそれを材料にして縄をなえるという、“新たなカルチャーとの出会い”が嬉しかったようです。今回のように日常的に森林内活動を生活の一部として取り入れている方々にとっては、「静かに過ごす」だけよりも、「知的欲求が満足される」ということもあった方が、ストレス解消・発散には、より効果的である、ということです。それが、改めて立証されたと言えるでしょう。


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午後には、まず、目的地途中にある観光地「玉だれの滝」へ。ここはこの滝を見て帰ってくるだけ、の鑑賞ツアーです。



  


午後からのプログラムは、「渡り蝶・アサギマダラマーキング体験」です。


アサギマダラは世界で唯一、海を越えて渡りをすることが確認されている蝶で、親が南下して南国のキジョラン(ガガイモ科)で卵を産み、幼虫→蛹→成虫になり、成虫になった蝶が里山のイケマ(ガガイモ科)でまた卵を産み、幼虫→蛹→成虫になり、さらに北上してヨツバヒヨドリ(キク科フジバカマ属)の蜜を吸い、それが枯れれば同属のヒヨドリバナ、最終的には里山のフジバカマで吸蜜し、また秋には南国へ下ってゆきます。その距離は2,000km以上になる個体もいるほどです。


幼虫期の食草であるキジョラン、イケマは毒草で、また成虫の吸蜜植物であるフジバカマ属にもPA物質という毒が含まれています。その毒を体内に蓄積することで天敵に食べられないようにし、またその毒をオスは性熟に使っています。



  


棧敷山にはせんべい平と呼ばれる開けた場所があり、そこへ行くとあっという間にアサギマダラを捕獲することができます。捕獲したアサギマダラの翅に個体識別番号と捕獲地、日付などを記入し、逃がします。そして、インターネットに登録して、誰かが再捕獲してくれるのを待つのです。


蝶の鱗粉は、様々な役割を持っています。中にも、鳥などに捕まった時に、するっと逃げられるように、あるいは蛇の目玉のような模様を作って、捕食者を怖がらたりもしています。ところが、アサギマダラは毒があるので天敵に食べられにくく、鱗粉が必要ありません。また、長距離の飛行にはすぐに剥がれてしまう鱗粉では困る…等の理由で、すぐに剥がれるような鱗粉はほとんど持っていません。だから、なおさらマジックで字が書きやすいのです。





私は以前は、アサギマダラの渡りに支障が出ることを心配して、なかなかマーキングできなかったのですが、最近は上記のようなことを研究者が発表してくれたので、やりたい方には安心してマーキングをすすめています。飛翔だけでなく、繁殖にも影響はないようです。


このアサギマダラマーキング体験も、終わってみればストレス発散・解消に一役買ったらしく、参加者にとっては森林浴セラピープログラムの一つとして捉えていたようです。最初に、飛翔や繁殖に問題がないことを説明しておいたから、先入観がなく、良いイメージを持って進められたのでしょうね。



では、『森林浴セラピー』では、いろんな体験プログラムをするのが望ましい?



いいえ、そうではありません。今回はたまたま試行的にいろいろと準備して、それが当たった、ということであります。ただしサービス業においてのセラピーガイド、セラピストとしての心構えとしては、参加者の嗜好は何なのか、そしてどんなことをしてストレス発散をしたいのか、ということを事前に把握するか当日察知して、それらの願望を実現させられるように臨機応変に対応することと、つかず離れずに丁寧におもてなしをする…ということが、とても大切なのだ、と思います。


場合によっては「一切何もしないで、干渉しないで放っておいて欲しい。遠くから危険がないように見守っていてくれればいい」というリクエストだってあるかもしれません。それも、対応できるのが良き森林浴セラピストです。



さて、まずは鹿沢園地で初の、一般募集型の森林浴セラピープログラムは、大好評の中、終了いたしました。
この後は、これを通年で受けられる発生型受託プログラムとして整備し商品化することになります。


ご期待くださいませ。



※この日のことを、後日、NHKラジオでお話させていただきました。
http://ecotourism.or.jp/akagi/archive/2014/nhkradio20140808.mp3






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