植物の不思議な力=フィトンチッド ―微生物を殺す樹木の謎をさぐる


  植物の不思議な力=フィトンチッド―微生物を殺す樹木の謎をさぐる


  著者 B・P・トーキン、神山恵三
  出版 講談社(1984/10〔1980/04〕)
  新書205p
  サイズ18cm
  ¥546



B・P・トーキン氏は、植物界におけるフィトンチッド現象の発見者でありフィトン(植物)チッド(殺す)の名付け親である。神山恵三氏が本書をB・P・トーキン氏と共著として出したことによって日本にフィトンチッドが紹介された。そしてこのフィトンチッドという言葉は、ロシアと日本でしか通用しない言葉なのだ。



本書は20年以上も前に出版されたものであるが、その内容は現在読んでも色あせたものではない。タイトルから想像するに易いさまざまな植物のフィトンチッドの作用、例えばニンニク、ユーカリ、トドマツなどの殺菌力や植物同士の相関作用、意志伝達物質としてのフィトンチッド、マスキング(消臭)効果…など色々出てくる。



インタープリテーションにすぐに使いたいお話もいくつも出てくる。「1ヘクタールのネズの森は一昼夜で30kgの揮発性フィトンチッドを空気中に分泌する事ができる。同面積の広葉樹林では2kg、針葉樹林では5kgである…」「地球はブルーヘイズ(青いもや)とブラウンへイズ(褐色のもや)につつまれている。青いもやの原因物質である森林から発散されるテルペン類は年間1億8千万トンにものぼる…」「生まれてこのかた樹木を見たことがなかったアラスカの海岸エスキモーは、エゾマツの森に連れて行ったとたんにその臭いに激しく咳き込みひどい頭痛を訴えた。恐らく海岸エスキモーとしての歴史が始まって以来、何千年も森に入っていなかった彼らは、樹木の臭いに対する抵抗を持っていないのである。これは、余りにも深い密林、長年にわたって人々の人々の足跡が全く入らなかった密林は、やはり人間を寄せつけない香気があるのかもしれない…」など。



最後に、フィトンチッドをうまく利用する事によって農業や医療に生かすべきと提案し、むすんでいる。私は今後何度も本書を読み返すことになるだろう。