魔法の池−牛池







牛池は万座の中心にある。周囲には美しい天然林があり、万座の湯客の憩いの森となっている。


善光寺に向かう途中、牛がここで溺れ死んだそうな」
「湯治に来た湯客が、ここに牛を繋いでいたんだそうな」
「湯客に牛乳を出すための乳牛を、ここで飼育していたんだそうな」


3メートル半の湖底もはっきり見えるほど澄んだ水はフナを入れると一日で浮き上がってしまう。そのくせ毎年夏には鮮やかなオオルリボシヤンマが大勢で産卵しに来る池である。


水際にあるダケカンバの大木の枝は逆さに伸びている。増水した日は枝葉が水面に接してしまう。


ある朝、日の出と共にここにいた。ダケカンバが大空と水面を間違えた理由がわかったような気がした。牛池に湖映する空の色は、確かに本物よりも澄み切っているように見えた。夢にまで見た瑠璃色の空がそこにあった。