四阿山 上州古道(登山道) 下見の巻



7月に、TV番組で四阿山登山をガイドさせていただけることになりました。今日はその際にご案内する四阿山登山道、上州古道を下見してきました。


四阿山登山 鳥居峠 〜 花童子の宮跡 〜 四阿山 〜 的岩 〜 鳥居峠 周回コース
http://ecotourism.or.jp/climbing_mountain/azumayasan01/index.html



  


今日は東吾妻町、忍びの乱実行委員会内「真田登山愛好会」のメンバーで来ました。登り始めはカラマツ植林地とミズナラ‐ダケカンバの二次林。人の手が入った森を進みます。



  



信国境では浅間山を除けば最標高の山である四阿山(2,354m)は、古くから農業の神、水分(みくまり)の神として、広く崇敬を受けていました。この山より川は四方に流れ出ていて、裾野に広がる土地土地に絶えず恵みをもたらしてきました。

日本の中央分水嶺でもあり、山の東側に降った雨は利根川を経て太平洋へ、西側に降った雨は信濃川を経て日本海へ流れています。日本の河川の長さ1位は信濃川・2位は利根川、流域面積では1位が利根川・3位に信濃川です。生きとし生けるものの命を支えている山です。


登山道の休憩所に見られる「四阿(あずまや)」の「阿」は棟を意味し、「四」を冠して四方に軒を下ろす屋根を持つ建造物となります。上田市真田郷には戦国大名・真田氏も崇敬していた四阿山をご神体とする神社『山家神社』があります。神の山「四阿山」より長野県上田市に流れる川を神川(かんがわ)といい、1585年、真田軍の数倍の軍勢で上田城真田昌幸を攻めてきた徳川軍は退却の際、追撃され神川を渡り切れず多数の将兵が溺死。決定的なダメージを受け敗退しました。山麓の住民、特に真田郷住民にとって四阿山は、神であると共に自らの生命の拠り所、住まう処=家であったと推察されます。


また漢字としての「阿」は「くま」とも読み、「隈」と同意義で折れ曲がって入りくんだところ、という意味であり「山阿」という言葉もあります。上記のようなことから、あずまやさんは古くから「四阿山」の漢字をあてがわれてきました。



  


四阿山山頂へは、最も歴史が古い鳥居峠からの「上州古道」を登ります。深田久弥が「日本百名山」で「ピッケル・ザイル党には向かないかもしれぬが、しみじみとした情趣を持った日本的な山である」と紹介した通り、登山初級者でも裾野から山頂まで自力で登りきる達成感を得られ、道中の遺跡や石祠、山頂の奥社などが歴史と品格を感じさせてくれます。


登山道の一段高いところに石祠があります。この上州古道は最も古い四阿山登山道ですが、長い年月の間に、このように若干位置が変わった所もあるようですね。



  


今日は、気になっていた石祠の向きを調べて行きます。ここは、南〜南南西あたりですね。湯の丸山と烏帽子岳の間方向。おや、真田郷とは違う方向ですね…


登山道には約1町(109.09メートル)ごとに石祠が設置されています。四阿山には養老二年(718)に修験者により加賀の白山比竎神社が勧請され、白山大権現を祀った四阿山修験道の聖地となり、江戸時代までは全国的な修験道人気と同様にたいそう賑わっていました。この石祠は、安永三年(1774)に全国の白山信仰の信徒たちが四阿山白山大権現参道に末社として120社の石祠を奉納したものです。石祠(末社)一つ一つには祀られている神様があります。



  


登山開始から約1時間半で、「華童子宮」という石碑がある遺跡につきます。ここが、白山信仰が盛んだった時代に、中宮(ちゅうぐう)の社があった所です。中宮から先は本家加賀白山の儀を模して同様に女人禁制とされていました。



  


一帯は開けていて中宮の参道及び境内だったであろうことを思わせます。この辺りには北海道と四阿山系など本州の一部にしか見られないカラフトイバラ(7月)を見ることができます。





「華童子宮跡」。立派な中社が建っていたことでしょう。



  


円柱状の石は、神社のどういう場所に使われていたのか…。この石積みは、白山大権現が廃止になってからは、誰も積み直してはいないことでしょう。明治5年(1872)、修験禁止令が出され、修験道は禁止されたそうですが、中社はすぐに解体されたのでしょうか。



  


国指定天然記念物の「的岩」が見えています。





この場所に中社を建てた理由が理由がわかるような気がする、開けたいい場所です。



  


しばらく雑木に埋もれていたあずまやも綺麗にしてくださいました。


  


ここには、いくつも石祠(末社)がありましたが、どれも少しずつ方向が違っています。げ、もしかして末社の向きには意味がない?!



  


「華童子宮跡」付近には、加工できる程よい岩があったようです。




  


げ、この石祠の向きは西南西です。真田郷ではなく、千曲の方向です。





レンゲツツジ満開の四阿山に登ります。浅間山北麓に広がる嬬恋村の畑もずいぶん見えてきました。7月には一面にニッコウキスゲが咲く場所です。



  


この石祠は、登山道に背を向けていますが、きっと元々の登山道は石祠の左側を通っていたのでしょうね。



  


見晴しの良い展望岩に到着。



  


童子の宮方面。



  


的岩方面。



  


そしてこの場所の石祠の向きは北北西方面。小布施の方かな? うーむ、石祠の向きには、全く意味がなかったのですね。参りました。



  

  


古永井分岐のあずまやはかなり傷んでいます。椅子に座ると抜けそうです…



  


この先には、まるで山頂の様に見えるピーク(2,144m地点)があります。七合目といったところです。



  


四阿山登山道では希少なガレ地で、高山植物も多く観察できます。浅間山の手前に見えるキャベツ畑の面積が広がってきました。日本武尊が東征からの帰り、今日の登山口・鳥居峠の上に立って東を振り返り、妻である弟橘姫を偲んで『吾妻はや』と三度嘆かれた、という伝説があります。それで、四阿山から流れる川を吾妻川、東麓の村は嬬恋村という、ロマンチックな名前になりました。



  


登山道にはショウジョウバカマ



  


ツバメオモトなど、早春の野草が見えます。このあたりは雪解けからそんなには経っていません。



  


シラビソのフィトンチッドに囲まれながら、イワカガミの鑑賞。



  


あれこそが本物の四阿山頂。奥社(東宮)が見えています。



  


一部、傾いてしまった木道もありました。



  


嬬恋清水の看板分岐を右へ。トラバースしながら数十メートル下りるようになります。



  


開けたいい水場です、嬬恋清水。

八合目付近、分岐点を右に10分ほど進むと山頂直下の湧き水「嬬恋清水」があります。標高約2,200mで関東最高所にあり、夏でも5℃前後と冷たく、修験者たちの命の水でした。雲と霧を集めて生まれた、空の湧き水をご賞味ください。



  

  

【嬬恋清水のおいしい飲み方】


水場に到着する10〜20分前に、手持ちの水を少し飲み、のどを潤しておく。カラカラ状態で水を飲むとがぶ飲みしてしまい、その後、汗が大量に出て電解質不足(低ナトリウム血症)になって深刻な熱中症になる可能性があります。また、冷たい水を一気に飲むと下痢になる可能性もあります(嬬恋清水は通常約5℃)。


水場に到着したら、まずは手を洗います。いきなり手ですくって飲むと、手に付いた泥や汗も一緒に飲んでしまうので、純粋に水の味を味わうためにまず手を洗うこと。腕時計の場所から汗が出ている場合は外して洗うこと。


焦って飲もうとすると手柄杓(てびしゃく)の形が利き手を上にしてしまいます。利き手が下になった方が、上の手指でできた隙間をより強い力で押さえ、締めることになり、隙間のない、きれいな柄杓ができます(水がこぼれません)


手柄杓で水を受け取ります。唾液が濃くなっているので、(水だけの味をピュアに味わうために)一回目は口をすすぎます。吐き出した水の場所に手柄杓の残りの水をかけ、流します。


二回目で受け取った水を、よく味わって飲みます。手柄杓に水が残っているようなら、先ほどと同じ場所に水をかけ流します。


冷たくて美味しいですが、嬬恋清水の本当の味は、10℃位にして飲むと最もおいしいので、手持ちのボトルに水を汲み、リュックの中へ。四阿山山頂で昼食を食べる頃、ちょうど10℃位になっています。

  


嬬恋清水を飲んで尾根に出たら、なんとシカが逃げて行きました。標高2,250m地点にシカとは…。かなり高所まで分布が広がってきています。



  


最後のやや急な坂を登ります。おや、四阿山まであと0.3km看板のところに道かたがありますね。これが、菅平へ行けるはずの道ですね。うーむ迷いそう。



  


山頂付近には酸化した赤い火砕岩が、転がっています。




着きました、四阿山山頂。ここには、三つの奥宮があります。一番最初にあるのが「西の宮」。菊理媛神(くくりひめのかみ)を祀っています。伊邪那岐神伊邪那美神を追って黄泉国に至り、そこから逃げ帰ろうとして黄泉平坂で争った際に、間に立って二神の調停をした神様で、白山権現垂迹です。



  


西の宮は最近、改修したばかり。材質はクリを使っています。木目が美しいですね。



  


古い材は針葉樹のようです。そういえば、こういった神社の古い材は、「お守り」としてよく配布されています。古い材の木端が落ちていたので、空き袋を使ってありがたくお守りにさせていただきました。



  


その次にあるのが岩室つきの「中の宮」。石積社とも呼ばれています。最古の斎場で、大己貴神 (おおなむちのかみ )を祀っています。大己貴神とは大国主神(おおくにぬしのかみ)の別名ですが、押森宮司曰く、火山に関係するところは大国主神ではなく大己貴神を祀っている傾向がある…そうです。大国主神須佐之男神の六世孫で、出雲の神として有名ですが、国造り、国譲り神話の中心的な神で、広く全国を統べる神格を持ちます。





標高2,354m、山頂すぐ手前にあるのが「東の宮」。ここには伊邪那美神(いざなみのかみ)が祀られています。伊邪那美神神世七代の最後にイザナギとともに生まれた女性神で、国産み・神産みにおいてイザナギとの間に淡路島・隠岐島からはじめやがて日本列島を生み、更に山・海など森羅万象の神々を生みました。しかし火の迦具土神(かぐつち)を産んだために陰部に火傷を負って亡くなり、黄泉国の神となりました。



  


最近、リュックが壊れて新調しました。グレゴリー社のアルピニスト50(http://jp.gregorypacks.com/ja-JP/GM322_cfg.html?dwvar_GM322__cfg_gmp_color=alpine_gold#start=3)。ところが問題発生。私のポールのグリップが大きいのか、ポール収納用ポケットにうまく収まりません。アイスアックス装着システム(ダブル)がちょうど良いので、こんな風にしちゃっています。



  


ではではランチタイム。さっきまで5℃だった嬬恋清水は12℃です。ちょうどいいですね。





写真は東側の浅間山風景ですが、山頂に着いたら、遠くの山を眺める前に稜線の西側を覗いてみましょう。四阿火山が最後の噴火をした28万年前にできたといわれる直径4kmの旧火口がぽっかりと空いています。


四阿山は独立峰で、北アルプスの全貌を遠望するにはちょうど良い距離です。天気が良ければ日本百名山の40数座が見えるそうです。360℃の大観をお楽しみください。


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帰りの木道、グラッと来るところがあります。お気をつけて!





帰り道、嬬恋村がよく見える場所があったので念のため撮っておきました。山頂からのものとどっちが良い景色かな?



  


下山時、シラビソの木が幹から折れて倒れていました。2年連続の大雪でやられたのでしょう。標高2,200m付近、この太さで樹齢100年程度は珍しいような気がします。たいていはもっと老木なはず。日あたりがいいからなのでしょう。



  


ヒカリゴケはまだ光っていませんでした。



  


うわっ、凄い根曲りのダケカンバ。人間の足、踵の様に見えません?



  


カバノアナタケの話は、みんなが取るようになるからしちゃいけないだろうな、と。



  


ガレ地のお花畑でクロウスゴ、ハクサンチドリ、ベニバナイチヤクソウを確認。



  


古永井分岐を右に。帰り道は的岩ルートで下山します。



  


このルートには、痩せ尾根上でのコメツガ原生林があります。下草も生えない程、薄暗くて貧栄養な森で、奇妙でもあり神秘的でもある森です。以前、ロープが張っていない時があって、迷いそうでした。



  


国指定天然記念物の「的岩(まといわ)」に到着しました。火山活動が盛んだった頃、地下の岩盤の割れ目に貫入したマグマが板状になって固まり、それが長い年月の間に侵食作用で表土やもろい岩が削られ、硬いところだけが浮き彫りになって残ったものです。火山用語では「放射ダイク」といいます。幅3mと狭いですが、高さは約15m、長さは200m以上におよびます。源頼朝が狩りの際、家来と弓を引いていると大男が現れ、握り飯(大岩)を投げて当ててみせた伝説があり、頼朝が狙った的の岩、大男が投げた岩、当たった凹み共に残っていて興味深いです。



  


こちらが、大男が投げて当たった凹みです。伝説、信じる気になりましたか?





最後は、気持ちがいいミズナラの林を歩きます。



今回、TVカメラが回るイメージで歩いてみると、やはり四阿山登山道には巨木がないなあ、と思いました。紹介できるようなランドマーク的な巨木が無いんですよね。天正15年(1587)、真田昌幸四阿山の樹木伐採禁止令を出していますから、その話の延長線上で樹齢400年以上の巨木があると良いのですけれども、登山道沿いにはありません。


7月は高山植物が豊富ですから、それを紹介しながらの登山になるかもしれませんね。


四阿山登山 鳥居峠 〜 花童子の宮跡 〜 四阿山 〜 的岩 〜 鳥居峠 周回コース
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