キジ車づくり






「ものづくり伝道師 浅間・吾妻塾」第四回は長野原町『キジ車づくり』 を実施しました。
http://ecotourism.or.jp/monodukuridendoushi/kijiguruma.html


(出典:長野原町の民俗)群馬県では一般的に1月15日の前後数日間を小正月といい、吾妻郡ではホダレとかハナと呼ばれるケズリカケを作って神仏に供え、繭玉づくりをします。(このケズリカケもすでに伝承者が絶えてしまっている集落も多いですが、)こういったものを長野原町では「小正月のつくりもの」と言います。中でも同町のものは種類が豊富で、祀り方・処分の仕方などについても他地域には見られないような特徴を持っていました。


その中でも、特筆すべきものであるのが「キジ車」で、本州では長野原町を中心とした一部地域でしか作られていません。九州地方には大分県、福岡県、熊本県などの広域でみられますが、小正月とは関係のない郷土玩具であるということと、由来が木材を運搬する木馬引き(キジ馬)から来ていると考えられています。ところが長野原本来の木馬(きんま)は車をつけないソリ式のものであり、長野原町のキジ車は国鳥の「雉子」から来ていると考えられています。





【なぜキジ車か?】
昔の人の話しでは子どもの玩具となっていたそうですが、さらに大昔では神様の乗り物だったことや、豊作・豊猟を祈願しての供え物であり、小正月の祭り終了後に子供に玩具として与えていたと考えられています。


「きじ」という名前から、木地屋(師)との関連を考えさせられますが、吾妻地方では本来の木地屋の存在はなく、木地屋がキジ車を作って売りだしたことはありません。あくまでも土地の人々が小正月に、小正月行事のためのツクリモノの一つとして作ってきました。六合村生須では小さいキジ車と木像道祖神を一緒に神棚へ上げて祭った後、おんべいや(どんどん焼き)で焼いたことは以前はキジ車が道祖神のノリウマ(乗馬)であったと考えられますし、長野原町大津のように、どんどん焼きの火をキジ車の背につけて家へ帰った話や、吾妻町岩下の「もえさしをキジ車にしばりつけて帰り、屋根の上に投げ上げて火伏せとした」ということは、キジ車が単なる玩具ではなかったことを物語っています。


川原畑での鳥追い行事には大人も子供も参加しますが、昔は小さい子がキジ車をひいて加わったそうです。鳥追いとは作物に害をなす鳥を正月に追って豊作を確実にしようとする呪的な行為であり、追われる「鳥」の中にはキジもいるはずですが、害鳥としてのキジが意識されてはいませんでした。キジ車にまとめられている雉子は鳥以上の何かになっていたのでしょう。





キジは古くから吉鳥としてよろこばれ、結婚式の料理にはなくてはならないものとされました。キジは夫婦仲がよい鳥とされ、母性愛が強く、子育ての上手な鳥として結婚式の吸い物の実に使われ(骨も叩いてつぶしてキジッポネとして使う)、暮には新婚夫婦から嫁の実家へ歳暮として雌雄一対が贈られるのを最高としました。姿、形、色彩のどれもすぐれ、食味も最高で、深く人々の暮らしと結びついていました。小正月に、その年の豊年万作を願って飾り立て、供えて祭る中にキジのつくりものも加えられ、それには豊猟祈願も含まれたとしても不思議ではありません。


小正月のツクリモノの材料は、1月2日の朝、山入りと称して近くの山に行き、ハナ木(コメゴメ〔ミツバウツギ〕)、マイダマ木(ヤマグワ〔嬬恋村のミズキは使わない〕)、ヌルデンボウ(ヌルデ)を伐ってきます。ヌルデンボウはオッカドとも呼び、大木にはならないヨタッ木(役に立たない木)で燃料としてもよくない木ですが、生長がはやく軟らかく、細工には適した木でした。2日に山入りできない場合は8日や12日を避けて別の日に入ったそうです。




  


佐藤師匠が今年作っているキジ車は、偶然、節がちょうど目のところに来ています。なお、昔は家によっては目玉や羽の模様を描いたそうです。九州の様に着色はしませんでした。胸にはアリ(切り込み)を入れて車輪をつけ、車をつけます。
キジ車の材料は曲がったヌルデを使います。地元の人は近くの山で伐ってきたそうですが、今はそうもいきません。草津町のIzaemonさんの里山の木を中心に曲がった樹木を用意しました。ダケカンバ、ミズナラ、ミズキ、カエデ、リョウブなどから、各自、相性の良さそうな材料を選んでもらいました。







では、長野原町の伝統工芸品『キジ車』づくりスタート!




  


佐藤師匠は自前でヌルデの木を用意して下さったので、師匠の作り方をレポートします。まずはくの字に曲がったヌルデの外側、下になる部分を大きめのナタで大胆に切り落とします。『腹出し』とも言えます。床を傷つけないように角材の上で作業をします。




  


切り口がきれいな平面になっているか、下から上からと確認しながら作業を進めます。




  


置いてみると、まだかなり切り口は曲がっている事がわかります。どんどん切り落としていきます。




  


腹がおおよそ出たら、首の最も凹む予定のところに鋸を少し入れます。その位置関係を見ながらさらに腹を削ります。




  


腹を下に置いてみると、かなり水平になってきました。首の鋸を入れたところをナタで凹みを広げていきます。




  


腹の浮き具合をもう少しなんとかします(腹を平面にします)。一回り小さいナタを取り出し、少しずつ丁寧に削ります。







これで、ピタッとお腹がつきました。




  




場合によっては、ここでイメージを高めるためにカンナをかけても構いません。




  


いよいよ首を決めていきます。首の凹み部分に鋸を少し入れ、前後からナタを入れてV形を深くしていきます。




  


上記の作業を繰り返します。少しずつ左右にもV字を広げていきます。




  


一気にではなく、ほんの少しずつ、根気よく作業します。やがて細い首ができます。




  


次に、頭をカットします。鳥の頭の幅は胸よりかなり狭くなるので、左右は割と大胆にカットします。




  


様々な角度から確認しながら。正面からももちろんです。ナタの根元の方を使って少しずつ削ります。




  


足で挟めて削ったり。置いて後ろから眺めてみたり。







この体勢は名人の佐藤師匠ならではのものですが、大きいものを作るのでしたらこの体勢はおすすめです。




  



ずいぶん、形がまとまったようです。後頭部もきれいに整えて、




  


ボディーの仕上げはカンナがけです。顔をかけたり、角張ったところを、落としたりします。




  


胸まわりにかけてやったりと、きれいにします。







ヌルデの美しい木目がよく出る様に。このヌルデの木目が、キジの胸の羽の様に美しいと思うのは私だけでは無いでしょう。おや、今日作った佐藤師匠のキジにも、節がちょうど目の位置に来たようですね。不思議な出来事です。




  


そして撮影しながらの私の作品は顔部分の木が割れて大変なことに。それでも何とか形を整えて、車輪をつけます。
しかし、佐藤師匠がこの車軸も用意して下さっていました。私も一通りやってみたいので作り方を教えてもらいました。




  


この車軸は軟らかいヌルデだからこそできる代物です。まず、適当な長さの枝を用意し、ナタで一辺が正方形の長い直方体にします。




  


直方体をキジのお腹の部分にあてて、胴体の幅より約5ミリ外側の位置に印をつけます。




  


印をつけた所から外側を円筒状にします。四つ角に鋸を少し入れ、ナタで角を落とし、




  


小さめのナタ、あるいはカッターなどで形を整えます。




  


先に削った方(ここでは右側)には車輪を入れ、キジの腹に仮置きします。車輪と胴体の距離は車輪が回るように5ミリは空けましょう。動かないようにして左側の車軸に印をつけ、同様に印の先を円筒状に加工します。




  


車軸をそのままにして裏返しし、キジの腹側にも印をつけ、鋸で切り込みを入れ、ノミで落とします。




    


胴の切り込み(アリ)に車軸がはまりました。




  


次に車輪が回るようにします。車輪が引っ掛からないように、車輪から3ミリ以上離して印をつけます。そこにキリで穴を開けて、




  


円筒が長すぎたら鋸で落とし、さらにナタで円筒先の角を落とします。




  


最後に車輪止め。細い爪楊枝のような棒をつくります。両方の太さが違うように作ります。




  


それをキリで開けた穴に刺してしっかり止め、棒が長いようならカットします。
本当はこの車輪だって自分で作りたいし、今日は作るものだとばかり思っていましたが、特別な工具がないと綺麗な筒型の穴は開けられません。車輪だけは、イベントや体験教室の際にも、主催者側が予め用意しておく必要があるようです。







できましたー 『キジ車』 。最後は品評会です。




  


これは!ウルトラセブンですか? そして、一番人気の作品はこちら↓







通さんのキジ車。トサカまでついています。




しかし特徴をよく覚えていましたね。ホント感心しますわ。













人気ブログランキングへ にほんブログ村 環境ブログ エコツーリズムへ にほんブログ村 アウトドアブログ 野遊び・森遊びへ にほんブログ村 アウトドアブログ 自然体験へ