トキワ松学園 森の教室



今年もこの時期がやってきた。高島先生率いるトキワ松学園森の教室。2日目の今日はネイチャー木村によるネイチャーガイドの日なのだ。

まずは笠ヶ岳を登山。今年はどんな子供たちなんだろうか…障害をものともしない子供たちであってほしい。そうでなければ私がこの山で鍛えるしかない。笠ヶ岳まではまずまず順調。早い子と遅い子に分かれてしまったが、ひとまずはついて来てくれた。ほっ。

山頂では、中学一年生ならではのはしゃぎようを見せていた。


  


笠ヶ岳峰の茶屋から山田牧場までが大変。部活をやっている子がほとんどなのに、なんでもない森の道で転んでしまうのだ。本来、森の立体構造を自由自在に動き回るために進化してきた私達のこのスーパーボディ。それが都会での暮らしでは生かされないのだ。自然対応用の身体を持ちながら都会で暮らしているとこうなってしまうのか…。なんて残念で、なんてもったいないことか。計り知れない可能性を秘めている私達のスーパーボディの退化が進んでいる。

やっとの思いで牧場に着いたが、ウラジロモミ巨木には反応無し。あとで行った樹脂の匂いには割りと反応してくれた。

先日ミヤマクワガタがとまっていたトチノキに、今日はエルタテハ(タテハチョウ科)などチョウも多く飛来していた。もう一つの不明チョウの3種がとまっている実は、白い分泌物を出しているように見える。あれは一体何であるのか?トチノキの実が昆虫を誘引するメリットはなんであるのか?


  


昼食は先日の見晴茶屋で。なんとアイスクリーム(小)をつけて¥700にしてくださった。ありがたいありがたい。

山田牧場 ミニドライブイン 見晴茶屋 TEL026-242-2804

昼食後、乗馬の経験がある子が馬にスススと近寄っていく。それにつられる様にして複数の子も近寄り、馬に触れることができた。牛馬も、子供たちを受け入れているようで、なんだかきれいな光景だった。こういう経験は、あったほうがいい。馬を初めて見た子もいたようだ。


  


そして雷滝へ。山田牧場から雷滝にはマイクロバスを利用した。ハイキングコースにあった天然ワサビの匂いを嗅がせてやれなかったのが残念。

しかし、雷滝では驚嘆の表情を見せてくれた。この表情、不思議さと神秘さに目を見はる感性−センス・オブ・ワンダーを子供たちは見せてくれる。だから、またやってあげたいと思うのだ。

毛無峠では、謎のおじさんが小串硫黄鉱山についてお話してくれた。


  


最後に御飯山の名水、ジロー清水を飲んで帰る。ここでは得意の笹ひしゃくの作り方を教える。

これが、いつやっても評判がいい。清水に笹の味がほんわり滲みて尚のこと美味いのだ。その味がわかるのか、何度も何度もおかわりしてくれた子がいた。

中には奥のほう、岩から滲み出している水をすくって飲んでいる子もいる。


  


今年も、子供たちから力をたくさんもらった。山登りの大人の方々を案内するほうが体力の心配が無いので楽なのだが、この子供たちの無邪気さや笑顔には敵わないものがある。しかし、今回のガイドでは予定していたコースを省いてしまったこともあり、時間短縮のため伝えることができなかったことがずいぶんあった。だから最後に、手紙を渡すことにした。



トキワ松学園中学校 森の教室 ご参加の皆さんへ

皆さん、3日間、本当にお疲れ様でした。中でも昨日の笠ヶ岳と山田牧場の登山は、とても大変だったと思います。ご苦労様でした。

ああいう高いところから周りを眺めると、たとえば下の道路に歩いている人が見えてもみんな米粒くらいにしか見えないですね。その人が金持ちなのか社会的にえらい人なのか、美人なのかも一切わからない。ただの点、一個の生き物にすぎない。宇宙からの視点で人間を見れば勝ち負けや優劣にこだわることの馬鹿ばかしさがわかるでしょう。

自然の圧倒的な力には人間はどうやったって太刀打ちできません。だからこそ自然の中では感謝と謙虚さの心を取り戻し、自分自身を見つめなすことができます。そしてそういうところに行くと人生において「大事なこと」と「どうでもいいこと」の区別がつくものなのです。

そして森の中は複雑な立体構造になっていますから、進むのが大変だった人もいたことでしょう。あの複雑な道を進むためにはさまざまな工夫が必要です。森の中では熊や蜂や蛇も出てきます。道に迷うことだってあるのです。だからこそ、自然(森)の中では生きる力と判断力が養われるのです。

21世紀は環境の時代と言われています。これからの時代、環境のことを深く理解し、自然と共生しようとしていない人の言動は軽んじられてしまうことでしょう。これからはネイチャーインテリジェンスの時代です。『森の教室』に積極的に参加するような皆さん方の時代です。これからも、どうか自然に親しみ、自然の中で過ごす時間を大切にしてくだされば、うれしく思います。

最後に皆さんのセンス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)がこれからもずっと失われず、永遠でありますようにと、お祈りしております。

平成18年8月3日 万座温泉ホテル (森林インストラクター) 木村道



こういうことは、進学校の教師が学校で声高らかに言うわけにはいかない。だから私が言うべきことだと思う。このメッセージから、なんで森の教室が必要なのかを感じ取ってほしいと思った。今回参加した子供たちが10年後、いやもっと後に、私を訪ねてきてくれることがあれば、あの山道を歩いたネイチャーガイドだけではなく、「木村さん、あのメッセージね…」と言ってくれたらどんなにうれしいだろうなあと思う。