もう一つの万座プロジェクト

いよいよ、種を蒔く作業に入る。ここ数ヶ月、周辺の野山を駆け回って万座で育ってくれそうな種を集めてきた。ほとんど使っていない冷蔵庫は種で満タン状態。言っておくが、自然破壊にならないような採取の技術は心得ている。心配無用。

この数ヶ月、小林勝三さんの指導協力の下、このプロジェクトを進めてきた。ようやく今年最後の作業が終わろうとしている


  


万座山草園では、もちろんコマクサもやる。コマクサは本白根山を代表する高山植物であり、大群落へと導いた人の一人がが万座の干川文次さん。コマクサは最も目立つ一番手前でやることにした。

この穴には小林さんが「かりばん」という軽石を持ってきてくれ、たっぷりと充填してある。その深さは60cm以上。カリバンとは嬬恋軽石ことだろうか。聞いておくのを忘れていた。あまり大きい軽石だと良くないので、ふるいで篩って落ちなかったものを砕いたり苗床に使ったりしている。ここに、最後の仕上げに白い小粒の軽石を入れてやる。


  


白い軽石をまぶしたのは、コマクサが良く映えるため。その後に桐生砂(小粒)があったので、混ぜてやった。鹿沼土は寒冷地だと凍結と溶解による凝縮・膨張に耐えられず、粒が崩れて粉化して空気と水の通りが悪くなってしまうのだという。赤玉土も同じらしい。

軽石と砂では栄養に乏しいように思うのだが、コマクサの場合は、肥料は全くやる必要はないというのだから、不思議なものだ。桐生砂をまぶしてちょっと茶色が強くなったので、この後白い軽石(小粒)を2袋まぶしておいた。


  


次に苗床作り。幸いに我が社は一応、大型のリゾート宿泊施設であるため、発泡スチロール箱には事欠かない。ここ最近とって置いた深めの発泡スチロール箱を苗床に使うのだ。

小林さん流では、箱の内側からドライバーでブスブスと穴を開けていく。こうすると、刺した入口は狭くても裏側の出口はやや大きい穴になり、円錐形の発泡スチロールくずが発生する。これで、箱の内側の穴より外側の穴のほうが大きくなり、排水性が良くなるのだという。園芸書にはラス網だとかいろいろと書いているのだが、結構アバウトで良いらしい。ま、確かにあまりにも生育に手をかけてしまうと、よくよく手をかけないと枯れてしまう植物になってしまう。それは困るからなあ。


  


穴を開けた発泡スチロールに、次々にカリバンの極大〜大粒を入れていく。予定よりもカリバンが足りなかったので、桐生砂(中粒)を上から、底が見えなくなるまで入れてやった。ここで大粒でなく中粒を選んだ理由としては、やがて土としての再利用ができるようにと思ったからだ。

この上に、万座の土、川砂、コメリで買った培養土を1/3ずつ混ぜた用土を乗せる。万座の土も、あんまりにも壁構造の土だったので、この秋に嬬恋村の畑の黒土を半分混ぜてある。小林さんは初めから培養土だけでやった方が発芽率は良いと考えていたようだが、種苗の土と花壇の土が違いすぎると、植え替えの時に野草がビックリしてしまうと思ったからだ。


  


川砂そのものはめちゃくちゃ重いので、持ち運ぶのに困難を極める。しかし、これをまぶすことによって、固まっても極度に硬くはならないという。嬬恋村山野草の会の一場さんが教えてくれた。

そして初めてなのに、大胆に野生ランにも挑戦したいと思っている。野生ランは成長の過程で、ラン菌との共生がなくては生きていけない時期がある。それで、通常育成は難しいといわれているのだが、それがダンボールを入れてやると、ラン菌がなくても養分を取り込むことができるというのだ。

やり方はもっとマシな方法があるのだろうが、とりあえず、ダンボールを丸めてセロハンテープ(セロハンテープは生分解する)で止め、その中に用土を入れてランの種を蒔いた。一つはハクサンチドリ、もう一つは花の時期を確認していないが、恐らくはノビネチドリだと思う。さて、育ってくれるかどうか・・・?


  


冷蔵庫いっぱい程の種のどれをどのように蒔こうか・・・いろいろと思案しながらやっていたら、最終的には66箱も今秋に蒔くことになった。本当は全部やってみたかったのだが、種苗を置けるスペースは限られているので仕方がない。それでも種苗作りは一日では終わらなく、大騒ぎになってしまった。

マニアックな事もやってみている。例えば中央の画像、ホオノキの種だが、右上は赤い仮種皮を被ったままのもの。左下は水につけて仮種皮を取り除いたもの。一般的には種皮には発芽抑制物質が含まれると考えられている。両方70粒ほど蒔いたが、はたして発芽率がどれだけ違ってくるのか、見ものである。

蒔き方は、タブーとされるやや厚播きにした。万座は気象環境条件が厳しいので、ほとんど発芽しないのではないか?と思ったからだ。写真はバイケイソウコバイケイソウ

とにかく、これで4月まで外の作業はおあずけ。当分は、ほったらかしになっていたインターネットマーケティングアロマテラピーの勉強を再開しようと思う。

…この数ヶ月、訳がわからないまま万座山草園つくりに没頭してきたが、このプロジェクトにゴーサインを出し、信頼して任してくれている黒岩麻利子女将をはじめ、役員の皆様にとても感謝している。期待に十分に応えたいと思っている。私もちょうど種から植物を育てていくことや、樹医の勉強を始めたところで、タイミングがぴったりと合っていた。私がその気になって取り組みだしてしまったので、ここ数年で、この界隈の宿泊施設が造るハンドメイドの野草園としては最高のものが出来上がるだろう。完成予定は2010年。『もう一つの万座の風景』を、心待ちにしていてほしい。