本白根沢



どうも気になる。3月18日前後の猛吹雪で、万座では枝折れや幹折れが続出している。あのジャンボカラマツは折れたりしていないだろうか。早速森に入る。

今日は別ルートから登ったが、下からこのようにやや見上げたほうが感動は大きいかもしれない。その姿はまるで天に突き出る草薙の剣のようだ。今日から「草薙のカラマツ」と呼ぶことにする。どうやら故損は無いようだ。ホッ。

折角なので本白根沢を登ってみる。ここまで大きいものは他にあるのだろうか。直径1m以上のものもいくつかあったが、草薙のカラマツの比ではない。そのうち、なんとなーく硫化水素臭がしてきた気もしたので、別のルートを進むことにした。


  


この付近で次のお気に入りの場所といえばこの場所。一見、ダケカンバとシラビソがセットになっているだけのようだが、それだけではネイチャー木村がお気に入りにする理由が無い。大径木とまでは行かないこのダケカンバの枝振りが、横に半端じゃなく伸びていること、そしてそこから周りを見てみると、自らの立体構造、ダケカンバ一斉幼齢林、カラマツ大径木林、そして念仏山本白根山四阿山などというように、外界へはいくつものマントや袖がやや透かした感じで配置されているのだ。

こんなにも隠れ家として、また休息場所として優れた場所はない。ここにも名前をつけよう。釈迦は35歳のとき、菩提樹の下で悟りを得た。そして私も35歳である。そう、「悟りの場」がいいだろう。


  


途中、手の届く所に素晴らしいカバノアナタケがあった。記念に撮っておいたが、採る理由がないのでそのままにしておく。このTopicsを見たガン患者から連絡をもらったら、…いや、それでも採るかどうか解らないな。

ツリガネタケはダケカンバにも生えるのだな。

今日、本白根沢に入る前に考えていたことがあった。それは、草薙カラマツは少し高台に位置しているので、おそらく3〜400年位前にあった本白根沢の土砂崩れの際の土石流から逃れたのではないだろうか。それで、その時すでに大きかった草薙カラマツはそのまま成長することができ、付近の太さとは極端に違うカラマツに育ったのではないか。…しかし、それは間違っていた。地形での高低差は僅かなものであったし、低い所にも直径1mオーバーのカラマツは確かにある。

そういえば朝日山山頂からみた本白根沢源頭等付近は爆裂噴火口のような形をしている。…勝手に、こんな仮説を立ててみる。あの草薙カラマツは樹齢500年以上としよう。そして1000年以内の昔に中規模以上の噴火、白根特有の硫黄を含む強酸性の泥流が発生する噴火が発生し、本白根沢の谷地を広範囲に強い酸性とした。そして硫黄を多く含む酸性の土地ではなかなか遷移は進行しなかったのではないか。まずは最も白根泥流に耐えるカラマツが発生したが、貧栄養で酸性度の強い土壌では大きく育つことができなかった。カラマツが枯れた後には、陰樹ではなく、やはりカラマツで更新が行われていた。その状況は、硫化水素ガスの強い本白根沢源頭付近のカラマツの枯死木群を見ればたやすく想像できるだろう。

今や林床は笹でびっしり覆われるに至り、それでやっと極相を模するシラビソやトウヒの若木も伸びてくるようになった。全体的には初代のカラマツではなく、噴火からしばらく経ってからの、二代目や三代目以降のカラマツが天然母樹林の主要木となった。そして草薙カラマツは泥流の端の付近にあったので、そこはある程度土壌の酸性が中和なされていた。だから泥流から最も年数の経過していない時期から芽生えたにもかかわらず、枯れなかった。他のカラマツが土壌の酸性に負け大きくなれずに枯死していく中、草薙カラマツはすくすくと成長し続けたのだった-------。

うん、これが正解なんだろうな。