森の野鳥を楽しむ101のヒント


森の野鳥を楽しむ一〇一のヒント

  • 編集 日本林業技術協会
  • 出版 東京書籍(2004/02)
  • 単行本230p
  • サイズ19x13
  • ¥1,470


?T野鳥を知る(12項)、?U野鳥から学ぶ(22項)、?V野鳥をまもる(22項)、?W野鳥を調べる(19項)、?X野鳥とともに(25項)+参考図書1項の101項となっている。



基本的なことも載っており役には立つと思うのだが、琉球諸島奄美諸島等の特異な地域にしか生息しない種についての説明も多く、身近でない鳥の説明のページでは退屈するだろう。しかし最後の≪?X野鳥とともに≫の章は僕の好きな内容ばかりだった。例えば↓(掟破りの全文転記)



【91.森に肥料をまく鳥---カワウ】

カワウは、水に潜って魚を食べる大型の水鳥です。一見、森とはまったく関係のない鳥のようですが、実は、カワウは森林に大きな影響を与える鳥でもあるのです。カワウが食物としている魚には、窒素やリンなどの栄養分が多く含まれています。そのため、カワウの糞にも窒素やリンがたくさん含まれます。つまり、カワウが沿岸部や河川で魚を食べ、営巣地のある森林に戻って糞を落とすと、栄養分が水域から陸域へと運ばれる事になるのです。カワウの営巣していない森林と比較すると、カワウの営巣地には数十〜数千倍にも及ぶ栄養分が、カワウの糞によって供給されている事がわかっています。

このことは、地球上の物質循環にとって大変興味深い現象なのです。通常、水や物質は高い所から低いところに流れます。つまり、森林から流れ出た水と物質は、河川として平地まで達し、最終的には海に流れ込みます。海まで到達した物質は、なんらかの道筋を通って陸上へと戻らなければ徐々に陸上から失われてしまいます。地球上に大量に存在し、生物にとっても必要不可欠な物質のうち、炭素や窒素などは気体となって海から大気中に移動する事ができるため、陸上で枯渇することはありません。大気中の炭素や窒素の一部は雨に溶け込んで、再び森林に降り注ぐのです。特に炭素は、二酸化炭素という形で光合成によって陸上植物に取り込まれることで、陸上生態系に戻る経路もあります。

しかし、常温で気体になることがない物質の場合、大気と雨を介して陸上へと戻ることは大変困難です。生物の体に必要な元素では、リンがこれに当たります。リンは陸上から海へと流れ出た場合、最終的には海底に堆積します。そのため、海底が隆起したり、火山によって噴出したりするなど、長い時間をかけないかぎり、地球科学的に陸上へと戻る経路がほとんどありません。しかしそこに、水中で魚を食べ、陸上で繁殖する鳥が存在すると、鳥の行動によってリンが陸上へと運ばれるのです。鳥を介した水域から陸域への物質輸送は海鳥ではよく知られており、栄養豊富な海洋から養分の少ない島などへの重要な養分供給の経路であると考えられています。森林に運ばれた大量の養分は、土壌中で無機物へと分解され、植物によって吸収されます。このようにして、カワウによって運ばれた養分は、森林の物質循環系に組み込まれるのです。(亀田佳代子)