身近な自然のつくり方 −庭や窓に生き物を呼ぶ方法−


身近な自然のつくり方―庭や窓辺に生き物を呼ぶ法

  • 著者 藤本和典
  • 発行 講談社(1997/04)
  • ¥693


近年、『ビオトープ』という言葉をよく耳にする。ヨーロッパ、特にドイツを中心として誕生したもので、「生き物たちが生活できる環境を復元させようという活動」の事をいう。本書はその手軽な入門書と言える。著者の得意とする鳥のやってくる庭造りはもちろんの事、チョウ、トンボ、バッタ、クモ、トカゲ、ヤモリ、コウモリ…などさまざまな生物を呼ぶ庭造りの手法が記してある。著者の生態学の知識の豊富さを物語る。



あたりまえの事ながらコンクリートに囲まれた都会では、このように自然的植生環境を人間が造ってやらないと、そこに生態系は生まれない。しかしこれはもっぱら公園施工、屋上緑化、生物多様なお庭にする事で、できる限りその地域にまだ残る生態系環を維持する効果の他、人間回復、情操教育…等の作用を目的とすることであり、充分に発達した森林のある場所でやる事ではない。国立公園内でわざわざコンクリートで池を造ってその地域に存在しない植物を植栽してビオトープと称し環境教育としている例などを見かけるが、以ての外である。著者もこう書いている。

「遠くの土地の生物を増やして放す人がいますが、地元にその生物がすこしでも生息していると、交雑がおこり固有の性質が消えてしまう危険性がある」。



また、僕としては森林がある程度の面積的広がりと立体的構造を持っているならば、野鳥用の巣箱を掛けることすら問題だと思っている。野鳥は人間に依存した種には成り下がってほしくは無いからだ。著者も同様の事を書いている。



他にもマダガスカルの植林プロジェクトの大失態、タイの国立公園の荒廃など、興味深な記述があるが最後に気に入った話を一つ。



明治神宮の壮大な森は、大正4年、「明治神宮造営局」の設計により造営されたものです。森を構成するクスノキは大木に成長し参道を暗く厳かにしてくれるという他、もう一つ理由があったのです。それは現在のビオトープにもっとも欠けている視点をもった、なんとも壮大なものなのです。当時、造園地のすぐそばは省線(旧山手線)が通っており、蒸気機関車が煤煙を巻き上げて走っていました。同じ頃英国ロンドンでは煤煙が原因で死者がでるほど大気が汚染されていました。これを見ていずれは東京もロンドンと同じようになると予測した造園当局は、驚くほどに100年後は大気汚染が原因による温度の上昇で気候が変わっていることを予測していたのです。』