熊四郎山の護る谷







雪解けのほぼ終わった熊四郎山と奥万座川の谷に朝日がやわらかく降り注ぐ。5月下旬、午前7時の万座温泉


寒さが厳しい万座では、大正末期まではとても越冬できないと考えられていた。11月下旬になると根雪の前に万座を脱出し、冬を下界でやり過ごした後、春に万座に帰ってきたのだという。そして家がつぶれず無事なのを確認すると「こりゃあ、助かった」と喜びまた商売に励んだのだという。


人間が越冬できなかったはずの谷。全ての循環システムに人間は関係なかったはずの谷。人間を拒絶しつづけたこの谷の風景が僕の故郷になりつつある。


この谷の変遷を熊四郎山はずっと見ていた。僕達はもう熊四郎山に受け入れられているのだろうか。それともいつかの様にまた鉄槌が下されるのだろうか。


人が許された場所にいたいと思う。いるべき場所に在りたいと願う。そうすれば絶対な加護があるから。あったから。