万座温泉風土記 (1980年) (萩原進著作選集) [古書]


  【万座温泉風土記 (1980年) (萩原進著作選集)



  萩原進(著)
  価格:¥2,500(税別)
  文庫:195ページ
  出版社:国書刊行会(1980/10)
  発売日:1980/10



(財)自然公園財団より、近々万座の記事執筆を依頼されている。記事依頼内容は自然及び散策路を中心としたものだったのだが、インタープリテーション職人としては地域を紹介するにあたり、先人が世に出し、評価を得ている歴史書に目を通しておく必要がある。日進舘にもあったはずなのだが見当たらないので、嬬恋村郷土資料館にあるものを読ませていただいた。現在、全てをコピーしたものが手元にある。



万座温泉史、交通史、硫黄鉱業史、万座山林史、旅館の変遷、自然界、名勝…などの章があり、知らなかったことがたくさん出てきた。著者の萩原進氏は吾妻及び群馬県郷土史研究家で、専門は社会経済学であり、自然科学の分野においては十分に記述できなかった…と本人も述べている通り、読んでみて確かに、森の遷移の動きや、植物同定などにおいて、?な部分があった。本書の編纂に3年の月日がかかったとあるが、もしそのチームに私が加わることができたなら、足りない部分を少しは補うことができたのになあと思う。



興味を持った話はたくさんあった。いくつか挙げると、関東平野信州善光寺平とを結び最短距離である毛無道は、江戸幕府の関所政策により発展しなかった。明治43年8月10日の洪水では三原で県下に誇る大校舎の小学校などが流され死傷者が出た時に、万座では常盤屋旅館の後継ぎに行方不明者が出ている。他には万座山昭和17年(1942年)に笹の実が大豊作となり、戦後の飢饉に大いに貢献したようだ。それから今66年経っている。笹の実の大豊作が約60年周期だとしたら、もしや来年でも…?



また、萩原さんの自然の見かた、社会の見かたは私の考えにピッタリの人であった。今後、氏の本を読み進めていくことになるので安心した。



かつて白根山と浦倉山の間に位する万座山といくつかのピーク、及び広大なその裾野一帯を万座といった。上州側ではかなり低い地域まで含まれていた。この万座山に入り木を伐ったり、硫黄を採集すると山の神が怒って荒れると言い伝えられていた。山に産するものは何一つ採っても山神の祟りがあると云われた。…現代の経済情勢は100年に一度の大不況の中にあり、万座温泉などリゾート産業は大変に厳しい時代を迎えているが、万座だけではなく、世界中の当地を護って来た神々がいよいよ修整に入ってきたような感がある。というか、人間も生命の根本である地球そのものがもうヤバイということを本能的に感じ始め、自らの生命を維持するためにエコな暮らしを求める風潮になってきたのではないだろうか。



この万座で私たちは、山神の怒りに触れずに、山神の加護の中に生きていくことはできるのだろうか。万座を語るためにはどうしても読んでおかなくてはならない一冊である。