自然生態修復工学入門 ― 荒廃した里山を蘇らせる


自然生態修復工学入門―荒廃した里山を蘇らせる



2006年ビオトープ管理士試験の教読本。この本を読むと、日本生態系協会が考えているのは営林でも営農でもないのだということが理解できる。



この本には、例えば荒廃した水田跡の修復が載っている。しかしその復元した水田ビオトープでは、稲作を行わないのだ。しかもその稲作を行わない水田を、毎年仮払いなどして保全管理することを推奨している。「稲作を行わない水田など水だけ溜めた無意味なトンボ池と同様。何の意味があるのか!」と激怒してしまいそうだが、日本生態系協会としてはそれで良いのだ。なぜなら田んぼを造りたいのではなく、田んぼにいた生き物を復元しようとしているのだから。



また、営林でもないのだから伐木の際の作業効率など関係ない。それよりも例えば伐倒による林床生物のダメージを嫌う。森林インストラクターとしては「は?こんな効率の悪い方法では経費がかかるばかりで現実的ではなく、生物多様性を図る作業など、100年経ってもぜんぜん進んでないのでは?」と思うところもないではない。



しかし里山を再生する技術に関しての情報収集力は凄いものがある。…ゲンジボタル成虫の点滅飛翔のピーク時刻など、私の持っている情報と違う部分もあったが、技術と情報量が凄いのでかなわない。



 以下はつかえる良い話。↓



P50 成長が遅いからといって肥料を与えると、1年生草本がはびこって目標とする多年生の野生草花の実生を被圧してしまう。



P118 魚類はカエルやトンボ類のように飛んだり跳ねたりして戻ってくることはない。だから移植作業を行う。



P146 …前略…生き物や草花を守り育てることによって仲間を育み、太古から伝承されてきた人と自然とのつきあい方、安全、危険に対する認知の仕方、食料や燃料など生きる糧となる自然の取扱いなど、生きるためのわざを体得し、次代に伝えることである。今まさにこのわざを身につけた先達が天に旅立とうとしている。もう10年もこの活動を遅らせると、次代にはつながらない。