里山を考える101のヒント


里山を考える101のヒント

  • 編集 日本林業技術協会
  • 出版 東京書籍(2000/02)
  • 単行本225p
  • サイズ19x13cm
  • ¥1,470


?T里山の定義と歴史(20項)、?U里山の立地・環境・制度(19項)、?V里山の動物(20項)、?W里山の植物(21項)、?X里山の活用(19項)+参考図書1項の101項となっている。「里山」はそもそもは単に「奥山」に対応する言葉として案出されたはずだが、現在では研究分野、行政目的、地域社会・住民との繋がりから生まれるさまざまな想いなどが込められており、統一した定義を用いる事はできない。本書を読むことで、自ら描いていた里山がどんなに小さな枠組みであったかを思い知るだろう。



以下に気に入ったお話を。



【10.氷期の名残−貴重な生態系】(守山弘)

「…ギフチョウが分布するのは常緑広葉樹林域なので、自然が回復すると、そこは一年中暗い常緑広葉樹林で覆われます。そうなると雄が飛び回る開けた場所も雌が産卵する開けた林も消え、ギフチョウは吸密するカタクリなどの春植物と共に姿を消します。こうした危機は最終氷期が終わって常緑広葉樹が北上を始めた時にもありました。でも花粉分析の結果では常緑広葉樹林が北上した速度は意外に遅く、約5000年前の本州内陸部の温暖帯域は、氷期以降続いてきた落葉広葉樹林と、新たに北上してきた常緑広葉樹林が入り交じった世界であった、ということがわかってきました。そのころは縄文中期で、本州ではすでに焼き畑が行われていた事が、花粉分析や遺跡の発掘などからわかっています。焼き畑跡地にできる林は本州の暖温帯域では落葉広葉樹林です。だから氷期の生き残りたちは焼畑跡地の林から雑木林へとすみ替えられたのでしょう。農業という働きかけが氷期の生き物を守ってきたのです…」



【12.古墳が語る里山の歴史】(田中伸彦)

「…次に、古墳の上に飾る埴輪や埋葬する鉄器・須恵器をつくるために、森林からたくさんの熱材を収奪したことが挙げられます。その結果、周辺の森林が照葉樹などの自然植生からアカマツなどの里山植生へと変化した事実が確認されています。つまり、古墳の築造は、今見られる里山植生が全国に広まる大きな要因になったのです…」



【43.都会の歌姫に里山は似合わない?】(前藤薫)

「北アメリカ原産の蛾で、終戦直後にわが国に進入し、都会の街路樹を食い荒らす害虫として有名になったアメリカシロヒトリも、里山に進出できない外来昆虫として知られています。アメリカシロヒトリについてはもう少し詳しい事がわかっており、鳥類やクモ類、ゴミムシ類といった天敵相が貧弱な市街地では幼虫の生き残る割合が高いために大発生しやすいのですが、天敵相の豊かな里山ではうまく増えることができないのではないかと考えられています。このように里山の生態系には、侵入者の勝手なふるまいを許さない仕組みがあり、そのため都会を席巻したアオマツムシも里山ではおとなしくなるのかもしれません。…しかし、外来生物の中には土着生物のネットワークを用意に打ち砕く乱暴者がいないともかぎりません。里山が本来持っていた豊かな生物相をこれからも積極的に維持すると共に、里山の生物相が置かれている状態を多面的にモニタリングしておくことが望まれます。」