森の野生動物に学ぶ101のヒント


  森の野生動物に学ぶ一〇一のヒント


  編集 (社)日本林業技術協会
  出版 東京書籍 (2003/02)
  単行本229P
  ¥1,470



これまでの100不思議シリーズ、101のヒントシリーズはタイトルからその内容を知ることができなかったが、今回はタイトルからどの動物種のお話なのかわからないものについては副題で動物種名を記述してある。これで後になってから資料としての読み返しの際にだいぶ楽になった。



森の野生動物(哺乳類・両生類・は虫類)の暮らしぶり、生態系を乱す外来種の問題などに注目し、「1 動物の分布と生息環境」「2 動物のライフサイクルや習性」「3 観察の手引き」「4 研究現場から」の4章に分け各約25項ずつ紹介している。



最も気に入ったお話は以下。全て記述したいのだが長いので一部を中略して紹介する。

【88.ヒゼンダニさえいなくなればいいのか?】(岸本真弓)

『十数年前から、全国各地で野生動物の皮膚病、「疥癬」が目につくようになりました。---(中略)---この疥癬という病気はヒゼンダニと呼ばれるダニの一種が原因で、非常に激しいかゆみのある伝染病の一種です。---(中略)---動物は食欲減退、元気消沈、体力低下が著しく、幼獣では発育不良を起こし、激症慢性例では栄養不良から衰弱し、ほかの病気を併発し死んでしまう場合もあります。---(中略)---疥癬の流行と終息には、ダニと被感染動物(宿主)の間に共進化ならぬ競進化のように関係があると考えられます。つまり「ダニに今までと異なるあるいは強い毒性を持つ変異が起こって疥癬が流行し、宿主側にその耐性ができて終息する」と考えられるのです。これは疥癬に限らず他の寄生虫、細菌、ウイルス性の感染症にも認められる現象です。野生動物と病原体とは自然の摂理の中で、互いに進化を遂げながら共存共栄してきているともいえます。見るに忍びない姿になったタヌキやキツネを見ると心が痛み、何とかできないものかと思います。疥癬は駆虫薬で治療できるので、薬入りのえさを与えたらどうかといわれることもありますが、これは自然界での進化の営みを考えると野生生物を助けるどころか逆に窮地に追い込むことになります。例えばタヌキとヒゼンダニの場合、タヌキのあずかり知らぬところでヒゼンダニが薬剤に対抗する進化を遂げ、それによって激甚な疥癬が流行した場合、もしタヌキの進化が追いついていかなかったら…タヌキは絶滅です。そして、そうなるとタヌキに寄生するダニも絶滅するのです。私たちが今の限りある知識だけで安易に自然に手を加えることは恐ろしいことです。私たちにできること、私たちがすべきことは、野生動物の遺伝的多様性を保証し進化を妨げないこと、つまり分布の空間的、時間的広がりを確保していくことだと思います。そうすれば、タヌキとヒゼンダニは互いの攻防によって盛衰を繰り返し、ともに進化を遂げながら共存していくのではないでしょうか。』