森と樹と蝶と −日本特産種物語−


森と樹と蝶と―日本特産種物語


 著者 西口親雄
 発行 八坂書房(2001/04)
 ¥1,995



嬬恋村高山蝶パトロール員になった頃、タイトルの通り『森と樹と蝶』の関係について理解を求めて購入した。しかし当時は自分の近所の生物しか知らず、本書に出てくる生物のほとんどが解らなかった。内容が求めていたものと少し違っていたからという点もあるが、読み返してみて、その後ずいぶん見てきたのだなあと思う。今はだいぶ理解できる。



日本に自生する植物、動物の分布・勢力の変遷を氷河期はおろか中古生代までにさかのぼって試行錯誤して解いていく。そこに中国雲南省等、世界を訪問調査した経験・知識を組み込み、それぞれの種の歴史物語を書いている。



掘り下げた推測には脱帽だが、そこまで正確なルーツを検証することは無いようにも思う。森林生態系はもっと曖昧でゆとりのある大きな流れの中で動いている。しかし筆者の、専門家の説に洗脳されないで自分の考えで推理してみる感性は私に似ている。説の正しさより思考の過程が楽しいのだ。



少し長くなってしまうが、外来生物の見方としてクズを引用した『森林と共生できているか』という筆者の考え方を紹介する。



「…例えば、林縁植物にあるクズは、一年で十数m伸びるほど成長旺盛で、時には大群落となり樹木のてっぺんまで葉で覆い、木の成長を阻害している事もしばしば。しかし暗い林内ではクズの繁茂はみられず、そこはキフジやヤマブドウが活躍する場である。クズと同様に他の高木にからみつき林冠部で葉を茂らせているが、これらが森を破壊しているという印象は受けない。高木たちと共存しながら生きる技術を持っており、キフジもヤマブドウも森林植物なのである。しかしクズもふるさとの中国では、その姿は控え目で日本のような傍若無人な振る舞いは見られない。日本の植物社会の中ではまだ他の植物たちと調和して生きる技術を獲得していないように見える。これはクズが日本の植物社会に入って、まだあまり年月のたっていないことを暗示する。…日本の林縁植物の分布として、ヤマハギ、ガマズミ、ヤマウルシ、タラノキスイカズラノブドウなどは北方系的分布、ヤマハゼ、ヘクソカズラなどは南方系分布である。しかしヌルデとノイバラ、クズは北海道から沖縄、朝鮮、中国にまで及んでいる。ヌルデ、ノイバラ共に薬用成分を含み、クズの縄の代用、家畜の餌、根に含まれるデンプンからとるくず湯と共に人間に古くから利用されている植物である。そう考えると、クズは人間が利用目的のために分布を広げてきた可能性がある。ただし、進入した時代は縄文時代か、それよりも古い時代かもしれない。」